Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

「心理的安全性を高める」─生産性本部シンポジウム

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2024年11月6日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 10月後半、千葉県生産性本部が「心理的安全性を高める~定着率を高め、生産性を高める働きやすい職場づくりとは」をテーマとするシンポジウムを開催。

 「心理的安全性」は約25年前に米国で提唱された概念で、「どのような発言をしても拒絶されず、チーム内は安全とメンバーが考える状態」。心理的安全性が確保されると、活発な意見交換や相互理解の高まりを通じて、生産性や業績の向上、イノベーションの促進につながるとされる。日本でも近年は、人的資本経営が注目される中で、同概念も取り上げられるようになった。

 今回のシンポジウムでは、銚子丸と千葉銀行が働きやすい職場づくりに向けた取組み、日本生産性本部はアンケート結果などに基づいたメンタルヘルスの取組みを中心に事例を報告。それを受けて私が司会を務めディスカッションを行った。以下は印象に残った参加者の報告・発言。

 ①銚子丸では、2017年以降の働き方改革によって明確に離職率が低下し生産性が向上。具体的な施策は、残業時間の削減、勤務間インターバル(11時間以上)の導入、男性育休取得推進、1on1ミーティング、女性店長登用に向けた環境・制度整備、本社スタッフによる店長支援の強化など。これらに伴う健康・メンタル面の改善と継続的な賃上げが複合的に作用した。

 ②千葉銀行では、パーパス制定や人材戦略強化によって離職率に低下の動き。23年に企業の存在意義を示す「パーパス」を初めて制定し地域社会への貢献を明文化。業績よりもお客様中心という意識の定着が働きがい向上につながった可能性。それに即した人材育成方針の策定に加え、組織信頼度を測る半期のエンゲージメントサーベイ、若手行員を対象とした月次のマインドチェック、社内通報制度の充実など、物を言いやすい環境整備も効果を発揮。

 ③生産性本部の調査によれば、メンタルヘルスの取組みとして重要なのは、サーベイなどによる不調者の早期発見と、職場で何でも話し合える・学び合える風土作り。コロナ禍による人的交流の経験不足、在宅勤務による職場との繋がりの希薄化などから若手の心の病が増えており、「心理的安全性」の高い職場づくりは非常に重要となっている。

 ④新卒採用者だけでなくキャリア採用者(中途採用者)に対しても、定着・機能向上の観点から研修・教育制度が重要との指摘も聞かれた。また、社員アンケートや社内通報制度が、同僚の悪口につながるリスクや、対処しない場合に会社への不信感を増すリスクも指摘され、適切な制度設計・運用の大切さも窺われた。

 多くの企業にとってヒントがあると思われた。シンポジウムの詳しい内容は当社のマネジメントスクエアに掲載予定(12月号)であり、皆さまに参考にしていただければ幸いである。

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