Business Letter
「点描」
社長 前田栄治
米トランプ大統領の政策とその影響
(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2024年11月12日号に掲載)
前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]
先週行われた米大統領選挙でトランプが勝利、議員選挙も共和党が上院で過半を獲得、下院も優勢で、「トリプルレッド」(赤がシンボルカラーの共和党が大統領、上下院の全て勝利)も現実味を帯びる。バイデン政権下でのインフレ高進への不満などが背景と考えられる。
トランプ大統領就任は25年1月20日。現時点で政策の行方は不透明だが、日本経済にも影響を及ぼしかねないものであり、簡潔に整理しておきたい。
トランプが内外の分断を促し、予測せざる行動を採ることが多いため、メディアを含め知識層では世界経済・国際関係への影響を含め否定的な見解が支配的。そうした指摘通りの面もあるが、現時点においては「警戒しつつも過度な悲観も不要」であり、状況を冷静に見守るほかない。
トランプの1期目は「お騒がせ」の出来事は多くみられたが、少なくとも経済の面では大きな混乱を招くほどでもなかった。ビジネスマンであるトランプは、1期目の経験も踏まえ現実的な対応をとる、というのが期待も込めた基本シナリオだ。
事前の発言などのうち実現可能性が高そうな事象は以下のとおり。
- 各種の減税を含めた積極的な財政政策の実施。金融機関の規制緩和などとも相まって米国経済は堅調さを維持(それらの期待から既に株価は上昇)。
- その影響でFRBの利下げは限られ、金利は高めの状態を維持(既に長期金利は上昇)。為替相場はドル高・円安気味の水準が維持され、大幅な円安修正は期待薄。
- いったん脱炭素は棚上げし、化石燃料に関する規制を緩和。
- 日本を含め自国の防衛力強化を要求(米国依存度の引き下げ)。
一方、一律10~20%追加関税、対中や対メキシコの高関税といった輸入品の関税引き上げの実施は不透明。大幅関税は米国のインフレ率を高めることになるが、トランプはバイデンが招いたインフレを引き下げるとも主張しており矛盾する。少なくとも中国には何らかの追加関税が掛けられようが、それ以外の国に対しては基本的に対米投資などを促す交渉材料とするだろう。
イスラエル・ウクライナ問題への関与の方法とそれら情勢の行方も不透明だ。前者はイスラエル全面支援で鎮静化、後者は早期終結としており、金相場もトランプ勝利で下落している。実現を期待できないではないが、予断を持たずみていく必要がある。
行動の読めないトランプの再選で日本にとっても不透明要素が増えた感はある。ただし、企業経営としては、場合によっては柔軟に対応する必要があろうが、基本的には長い目でみた経営戦略を維持していくことが大事だろう。
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