Business Letter
「点描」
社長 前田栄治

物価高も金融緩和スタンスに変化なし──日銀展望レポート

(「(株)ちばぎん総研BusinessLetter」2022年7月22日号に掲載)

前田 栄治[ちばぎん総合研究所取締役社長]

 日銀は昨日、四半期毎に経済・物価見通しを示す展望レポートを公表(下表)。

 ①経済は、見通し期間(22~24年度)を通して回復傾向を続け、22年度後半には長い目でみたトレンドに復するとの基本的な見方を維持。ただし、22年度の成長率は海外経済減速の影響などから幾分下振れさせ、先行きの不確実性も高いとしている。

 ②消費者物価は、見通し期間を通して上振れるが、日銀の目標である+2%程度の持続的上昇の実現には至らないとの予想。具体的には、22年度が資源高等から+2.3%となったあと、23年度+1.4%、24年度+1.3%と上昇率が低下。

 同時に示した当面の金融政策運営方針では、これまでの強力な緩和策を維持することを決定(短期金利-0.1%、10年国債金利0%程度<±0.25%>、大規模な国債買入など)。また、記者会見で黒田総裁は「利上げのつもりは全くない」と発言し、一部市場の思惑を明確に否定。景気の回復がなお不十分で、2%を超えるインフレも持続的ではないとみているためだ。円安は進行しているが、為替相場そのものは金融政策のターゲットではなく、コントロールも難しい。

 ただ、日銀の物価に対する見方が強めの方向に変化していることには注目したい。資源高や円安の影響が薄れる来年度以降も1%半ばの物価上昇率を予想するようになった。2%にはなお距離はあるが、強力な金融緩和を開始した2013年以降でも、1%以上の定着は実現してこなかったので、大事な変化だ。レポートでは、中長期の予想インフレ率が上昇していることについて、従来に比べ明確に記述している。これには、コロナ禍やウクライナ情勢を機に、企業や消費者の物価観が変化してきたこと(点描7月6日号を参照)が影響していると考えられる。

 2%目標実現への拘りが強い黒田総裁のもとでは、政策修正の可能性は低い。ただ、コロナ禍からの景気回復がさらに明確になり、1%を超える物価上昇が定着する確度が高まっていけば、現在の政策が短期金利マイナス・10年金利ゼロという極端な超低金利なだけに、その修正に関する議論は次第に高まっていくものと考えられる。

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